ローボール・テクニックとは、最初に目を引くような、手出ししやすい条件を見せて、相手を食いつかせてしまってから、条件を釣り上げる手法です。
つまり、最初に提示した条件では、得られることができないのですが、一度食いついてしまうと、後に戻りにくくなる、という人間の心理をついたテクニックなのです。
このテクニックは、言ってみれば詐欺のようなテクニックです。
もちろん、そのままだましっぱなしにするのではなく、最初の条件が「実は」間違いで、実際にはもっと高い条件になってしまうということを、後から種明かしするのですから、完全な詐欺というわけではありません。
実際にことを起こす前に、種明かしをしているのですから、相手には断るチャンスもあるわけです。
しかし、人というものは、一度要求を受け入れてしまうと、あとから撤回することは「恥ずかしい」「みっともない」「面倒くさい」という感情が邪魔をして、中々断り辛くなるものなのです。
要求を予め低めに出しておいて、あとから要求を釣り上げる手法は、フット・イン・ザ・ドアテクニックと似ているように思うかもしれませんが、フット・イン・ザ・ドアテクニックは、最初の要求と次の要求は、両方とも別個の要求であるのに対し、ローボール・テクニックは、要求自体は最初から変わらず、条件だけが1度目、2度目と変わります。
「アンケートに答えてもらえませんか」→「アンケートに答えるために別室に同行してください」
これなどは典型的なローボール・テクニックです。
最初に「アンケートに答えてください」と簡単なお願いをしているように思わせます。
街角で10分程度アンケート用紙に記入するだけならばいいだろうと勝手に想像して承諾すると、実際には、別の場所に移動してかなり時間のかかる面倒なものであることが、明かされます。
このときには、すでに承諾してしまっているので断り辛くなっているのです。
つまり、最初の条件提示の時には、相手にとって不利となる情報は与えません。
最初は相手が受け入れやすい条件のみを提示します。
それが承諾されたら、本来の条件を提示するのです。
「50%オフセール実施中」→「こちらの棚の品物はセール対象外です」
これもローボール・テクニックです。
お客さんが50%オフセールの立札を見て、店に入ってきて、品物を手にとってレジに持ってきたときに、「この品物は対象外だ」と言われたら、だからといって「買うのをやめた」と言える人はあまりいません。
商品を手に取ってレジに持ってきてしまった時点で、引っ込みがつかなくなってしまっているからです。
このテクニックでは、実際の条件提示をする段階になって、「最初から言わないとは卑怯な」と、相手に嫌悪感を抱かせないようにしなければなりません。
つまり、当たり前のように条件を提示するのではなく、「うっかり感」を出してみたり、申し訳なさそうに言ったり、また自分でも予想できなかった事態になってしまったような、偶発性を装うのです。そして、「仕方ないな」と思わせるのです。
したがって、このテクニックには、話術や、人のよさそうな雰囲気を演出する演技も必要になってきます。
スーパーなどでも、金額を赤い色で表示しているにも関わらず、実際には低下のままだったというのも、ローボール・テクニックに似ていますが、この場合は、店側が実際の種明かしをしてくれないケースが殆どです。
その値段が低下であることに気付くのは、あなたが別の店で同じ商品を見た時でしょう。
これは、赤い色ならばセール品に違いないという思い込みを利用しているので、「騙し」に近いテクニックになり、気づいた人には二度と通用しなくなるので、その点ではあまり使える手法ではありません。
このテクニックは、相手の人間性と自分の人間性の両面が問われます。
つまり、愛嬌があり、とても人間的で憎めないヤツ、という感情を抱かせてしまえば成功するということです。
また、「最初に全ての条件を提示していなかったのだから、そういうことならば引き受けることができません」と断ることが「器の小さい人だ」と思われたら嫌だな、と周囲の目を気にするような人であれば、このテクニックには簡単にひっかかってしまいます。
まずは、ローボール・テクニックという存在を知りましょう。
この記事を読んだあなたであれば、もうその存在を知ったことになります。
存在を知っていれば、あの人はいい人だから…と感情に流されずに、冷静にその条件提示を分析することができるようになります。
あなたにとって、その条件があまりに不利な時には断ることができるでしょう。
しかし、断るにしても断り方があります。
うまく断ることでその後の関係も問題なく継続できるようになります。
そのため、断りの文句を幾つか用意しておくことです。
手間がかかるものであれば、「その時間がない」ことを、お金がかかるものであれば「お金がない」ことを伝えましょう。
伝えるときも、周りの目が気になる場面では、申し訳なさそうに断ります。
周りに目がなかったり気にならないときには、毅然と断りましょう。
ローボール・テクニックに関わらず、使える手としては、その場ですぐに承諾しないで、考える時間をとることです。
「検討させてください」といって、その場から離れ、自分一人になって、その条件や要求について、得であるのか損であるのかを熟考しましょう。
そのあとに返事をすればいいのです。
もし、今すぐに返事をしなければダメだということであれば、それは怪しい要求なので、断った方がいいでしょう。
世の中、うまい話などないということを肝に銘じておきましょう。