恐怖を煽って、「こうなりたくないのであれば、こちらの要求に従いなさい」と、思い通りに操ろうとするテクニックです。
この心理テクニックは、まずネガティブな情報ありきで始まります。
相手に恐怖心を植え付けて、それを取り除くための解決策を提案する、という形をとります。
しかし、恐怖心を煽るという心理テクニックは、あまりスマートな手段とはいえません。
気づいたらいつの間にか相手の要求を呑んでしまった、というよりも、相手に無理やりそう思わされたという感じを抱きやすいのです。
ですから、あまりにも恐怖心を煽りすぎると、反対に怒りを買ってしまうこともあります。
ですから、あまりこのテクニックを使いすぎないで、様々な心理テクニックを使ううえでの一つの方法として頭に入れておきましょう。
心理テクニックは、一つのものを使い続けてしまうと、「あの人はいつもああ言ってくる」と、警戒されてしまいます。
ですから、そう思わせないように、臨機応変に複数のテクニックを使うようにした方が成功率が上がります。
「もし突然事故にあったら、このくらいのお金がかかります。
そうならないように、もしものための保険に加入しませんか」という決まり文句の保険の勧誘は、典型的な恐怖心を煽った勧誘です。
このように、「もしも~しなかったら、このような暗い未来が待っています」とネガティブな情報を相手に与えて、「その暗い未来を取り除くためには、わたしたちの提案するサービスを契約してください」と続けるのです。
「周囲は完全に包囲された。おとなしく出てきなさい」というセリフは、犯人が建物に人質をとって立てこもった時などに使われるものです。
これは、犯人にはまったく勝ち目がないことを警告として発信することで、相手の戦意を殺ぎ、無抵抗で投降するように仕向けているのです。
さらに、沢山の人を集めて銃を構えている様子を「見せる」ことで、相手に絶望感や諦めを感じさせることもします。
このような手法も、犯人に「これ以上続けたら撃ち殺されるかもしれない」という恐怖心を煽っています。
麻薬撲滅キャンペーンでは、麻薬を摂取したせいで起こってしまった悲劇、実際の経験者の麻薬の厚生施設での談話などを流すことで、「このような悲劇を引き起こす悪い薬品である」というネガティブな情報を与えています。
また、青少年にタバコを禁止する映像でも、タバコを吸うことで血流量が減ることや、肺が真っ黒になっている映像を見せて、自分の身体が侵されている状態をイメージさせます。
このようにして、「あんな風にはなりたくない」という恐怖心を煽り、手を出させないように仕向けているのです。
先ほどの例に挙げた、犯人への警告の場合には、やりすぎると犯人が自暴自棄になって人質を殺害してしまうといった最悪のケースに発展してしまうこともあります。
強すぎる恐怖は、ときとして相手の正常な思考や判断力を奪ってしまうこともあります。
また、恐怖心を植えつける時間を、あまりに長くとりすぎると、恐怖心よりもその話が長いことに、相手が苛立ちを感じてきて、恐怖心はどうでもよくなってきてしまいます。
むしろ「早くこの不愉快な話をやめさせたい」という一心で、解決策の提案を聞く段になって、「興味ありませんので」と一蹴されてしまいます。
このテクニックでは、ほどよい恐怖をほどよい時間で感じさせなければなりません。
恐怖心を煽るには、弱めに煽る程度でよく、またそうならないための「逃げ道」としての解決策を提示することも、強烈にと言うよりはごく自然に優しく、善意を感じるようにした方が効果的です。
もし、その解決策がかなり困難なものであれば、「そうしたいのはやまやまだけど、自分にはできないな」と、恐怖に感じながらも、解決策があまりにもハードルが高いために、手を出してもらえません。
人は忘れやすい生き物です。
その場では恐怖を感じたけれど、解決策に手を出さずにいると、そのうち恐怖心も解決策も忘れてしまいます。
恐怖を与えるということは、問題意識を持たせることでもあります。
しかし、心理を操ろうとするのであれば、相手に考えさせてはいけません。
まずは恐怖心を植え付けて、なおかつ、相手にそこそこの問題意識を持たせるようにします。
強すぎる問題意識は、「あなたが提案する解決策のほかにも、もっといい方法があるのではないか」「本当にこのような問題が起こりうるのか」といった、根本的な検討を始めるきっかけを与えてしまいます。
ですから、恐怖心を煽る心理テクニックでは、相手の頭の回転をよくさせるのではなく、相手の思考力を奪うようにします。
「それは問題だな」と問題意識を喚起するとともに、「詳細まで調べるのは面倒くさいからこの人のいうことを信用しよう」という程度の問題意識が芽生えるようにします。
そうして思考力を奪い、その解決にはこちらが提案したもの以外には考えられないと思わせるのです。
多くの人は恐怖心にかられると、「これは大変だ」と妄信してしまい、正常な判断ができなくなります。
恐怖を煽るテクニックに対抗するには、まずこの妄信をしないように注意しましょう。
最初に考えるべきは、その恐怖を煽る文句と、その恐怖を取り除く解決方法の出所です。
両者の出所が同じ媒体であるならば、それはその媒体が得をするシステムになっているだけです。
出所が同じだと、大抵の場合は解決策は1つしかありません。
それは、その出所が推奨する方法を実践することで、お金の流れはその出所に向かいます。
恐怖心を煽られるような問題が発生した場合には、次にあなたが考えるべきことは、その解決策についてです。
解決策は、本当に一つだけでしょうか。
殆どの場合には、複数の解決策があるはずです。
その解決策は、人任せ(同じ出所が推奨する解決策に頼ること)にしないで、自分で調べましょう。
それも一つだけではなく複数の方法について調べるのです。
保険であれば、もしものためにかかる金を確保する手段は保険だけでしょうか。
例えば、投資したり貯蓄するように、複数の解決手段を検討するようにしましょう。
また、提示された解決策のデメリットや実際のコストなども、必ず調べましょう。
保険ならば、掛け捨ての商品も多くあります。
そうでない保険も、支払ったお金の殆どは保険会社に搾取され、自分たちに戻ってくるお金は払った額よりも少なくなることは良くあります。
また、個人で加入する保険には不払いの問題もあります。
本当に支払ってくれるかどうかもわからないものを信じることができるでしょうか。
そして、同じ種類の解決策があるならば、その比較もしましょう。
たとえば、保険ならば、その保証の中身を調べたり、どのくらいのコストがかかるのか、他社の同程度の保険はどうなっているのかを調べるということです。
このようにして、自分で考えつくしたうえで決断すれば、あなたは恐怖心に駆られて契約するのではなく、納得して契約することができます。
あなたが心理戦で負けて、損をすることもなくなるでしょう。