ホーム心理テクニックを利用した交渉術YesかNoでしか答えられない質問
人の心理を操る基本は、問いかけたりお願いしたりして、それに対する返答をもらうことです。
こちらが何も言わなくても、自然に相手が思い通りに動くように仕向ける方法もありますが、それはかなり高度なテクニックです。
まずは、相手に話しかけ、問いかけてお願いするといった、こちらからのアクションによって相手の気持ちを動かすことが、心理操作の第一歩です。
そういった心理操作のうちの一つ、質問をして相手の気持ちを操作する、というのが今回のテーマです。
さて、質問をして相手の気持ちを操作するといっても、そう簡単なものではありません。
なぜならば、相手の答えを予測できないからです。
相手の答えを予測できれば、こちらは常に先手を取って、「こういう返事をしてきたら、こう攻めればよい」と戦略を練ることができますが、予測できなければ、常にその場でアドリブで対応しなければならず、相当慣れていなければ、相手の気持ちをコントロールすることは難しいでしょう。
ということは、反対に考えれば、簡単に相手の心理を操作するには、相手の答えが予測できるような質問をすればいい、ということになります。
相手の答えを予測できる質問とは、YesかNoでしか答えられない質問のことです。
これならば、「はい」か「いいえ」の2択しかありません。
といっても、今回の話は、「はい」ならばこのように対処し、「いいえ」ならばこのように対処する、という対応策を考えましょう、というものではありません。
YesかNoでしか答えられない質問をすることで、相手の心理を操作するには、Yesと答えるしかないような質問、またはNoと答えるしかないような質問の、どちらかひとつをし続けるのです。
このように、YesかNoのどちらかひとつでしか答えられない質問を立て続けにすることは、相手の思考力を奪ったり、徐々に退路を狭めていったりする効果があります。
以前わたしの家に、郵便局員がゆうちょ銀行の口座開設の営業に来たことがありました。
そのとき局員は、このテクニックを使っていました。
それは以下のようなやりとりでした。
局員「現在、郵便局で口座はお持ちではないですよね?」
わたし「はい」
局員「ゆうちょ銀行は、どんな町にもあるし、コンビニやスーパーにもATMが置いてあって、いつでも使えて便利ですよね?」
わたし「はい」
局員「利息も○○なので、他の銀行などに引けを取りませんよね?」
わたし「はい」
局員「メリットも多いので、給与口座としてゆうちょ銀行に口座を開設していただけませんか?」
大体以上のような流れで、Yesでしか答えられないような質問を立て続けにしてきたのです。
そして、最後に、営業目的を達成する質問をさらりと投げかけてきました。
非常にうまい流れだと思います。
このように相手に一つの答えだけを言わせ続けていると、その人は、自然と次の質問にも同じ答えをしたい、という心理が生まれてしまいます。
また、上記のような流れだと、本人の気づかないうちに「口座をつくらない」という理由が、徐々に削られていっているのがわかります。
最終的な質問に「はい」と答えてもいいかな、と思わせる効果があるのです。
「YesかNoでしか答えられない質問」テクニックを使ってくる人がいた場合、他の心理テクニックでも同様ですが、まずは、こういうテクニックが存在するということを認識しておきましょう。
相手の手札を知っていれば、惑わされる確率が減ります。
何よりも「この人は心理テクニックを使って誘導しようとしているな」と気づけば、「騙されないようにしよう」という自己防衛の態勢を整えることができます。
この自己防衛心を抱けるかどうかが、心理テクニックに対するためのカギになります。
先ほどの郵便局員の話でいえば、最終的にわたしは「ゆうちょ銀行は、会社で振込口座として認められていないので…」と言って断りました。
もちろん、そんな決まりはありません。
また、ゆうちょ銀行に口座を作ることに問題があるわけでもありません。
ただ、自分でよく調べずに、相手の言葉だけを鵜呑みにして契約するということは、どんな場面であっても怖いと思っていたので、その場では一旦断ろうという気持ちが働いたのです。
このように、咄嗟に適当な断り文句が出てくればいいのですが、それほど臨機応変に断り文句が出てこない場合もあります。
しかし、それでも問題はありません。
本来、断るときに理由など必要ないのです。
相手がなんと言おうと「今は検討していません」「必要ありません」とだけ答えていればいいのです。
どんなときでも、その場で契約を迫るような営業をしてくる相手の話に飛びつくのは危険です。
そういう場合には、とにかく一旦は断ること、よさそうに見えても諦めることが大事です。
こちらも意見を言わせてもらえないような質問ばかりをしてきた場合には、「おかしいな、これは何か怪しい。心理操作をされているのかもしれないな」と疑って下さい。
そして、芽生えた猜疑心を自らの手で摘み取らず、自分の気持ちを信じてください。
営業マンの話が気になったのであれば、一旦断って、一人になってから自分なりに調べて、その上で納得した場合に契約をすればいいのです。
営業マンは契約させて何ぼですから、甘言ばかりでデメリットを教えてくれません。
また、すぐに契約しなければ、この話はなかったことになる、というような期限つきの話を持ち出してきた場合には、もはや信用できないと思いましょう。
自分で調べるという癖をつけるためには、相手の言葉を必要以上に信じないで、まずは断る癖、断る力をつけましょう。