レトリック(rhetoric)とは、修辞学と訳されます。
心理戦で用いられるレトリックの意味は、「言葉のあや」といえばわかりやすいでしょう。
人を言いくるめるための技術ということです。
人の印象というものは、言葉の遣い方一つで変わってきます。
例えば体言止めで表現した方がより強烈な印象を与えることができたり、同じ内容を意味する文章でも、ポジティブな言葉を遣った方がネガティブな言葉を遣うよりも印象がよくなったりするものなのです。
コップの中にジュースが半分あるときに、「残り半分しかない」と考えるのと、「あと半分もある」と考えるのとでは、後者の方がポジティブです。
「あと半分もある」と言った方が、かなり飲んでいるけど、まだまだ飲めるんだなという意味合いになり、「残り半分しかない」と考えることは、「まだこれだけしか飲んでいないのに、あとわずかしか残っていない」という意味に思わせます。
このようにポジティブ、ネガティブな言葉の遣い方によって、相手に与える印象は正反対になるのです。
ポジティブなレトリックでは、複数の選択肢のうち、こちらの意見に同調させたいのであれば、ポジティブな表現にして、誘導することができます。
ネガティブなレトリックでは、焦燥感を煽って、相手の心理を操作することができます。
「こうしてください」と頭からこちらの意見を通そうとするのではなく、「こうした方がいいとは思いませんか」と提案型の問いかけにして、相手に考えさせるように仕向けると、こちらが望んでいる結論であるにも関わらず、相手は自分で考えた末での結論なので、賛成してくれやすくなります。
人は厳しい物言いや、断定に対しては、反発心・対抗心・猜疑心を抱きやすくなります。
そして、「本当にそうだろうか?実際には違うのではないか?」と疑ってしまいます。
あなたが焦って決断を迫れば迫るほど、相手の心は離れていってしまいます。
しかし、逆にソフトな言い方、控えめな言い方の場合には、相手にあなたの意図を組んであげようという心理が働きます。
「確かに○○ではあるが、それは××という意味である」というように、言葉(=事実)そのものについては、一旦認めるものの、その言葉(=事実)の真の意味、背景については、皆が思っているものとは違い、実際にはこういう意味なのです、と視点を変えさせるような考えを示す方法です。
例えば、「考えもなしに行動する」=「行動力がある」と捉えたり、「嘘つき」=「臨機応変な対応」と捉えたりすることで、ネガティブな印象を、ポジティブな印象に操作することができます。
「結構です」という言葉は、肯定の場合でも、否定の場合でも使われる言葉です。
ですから、この言葉だけでは受け入れてくれたのか、拒否されたのかわかり辛くなります。
もちろん、そのときの言い方によって、普通はその意図するところを理解できるものですが、レトリックを使う人は、この言葉の意味をわざと歪めて解釈します。
こちらが断りの意味で「結構です」と言ったことを、賛成の意味でわざと受け取るようなことをしてくるのです。
レトリックを使うには、言葉に長けていなければなりません。
相手に考えさせたり、やわらかい印象を与える物言いをする、ということであれば、幾つかのセリフを用意しておけばいいのですが、ポジティブに捉えさせたり、視点を変えさせたり、同音異義語によるレトリックを使うには、臨機応変に対処できる引き出しの多さがモノを言います。
常に、言葉の与える印象について考えておき、「同じことを表現するにも、別の言い方をするにはどうすればいいか」という訓練を日ごろから積んでおきましょう。
また、ダジャレを好きになるのも一つの訓練と言えます。
レトリックに惑わされないようにするには、その言葉の真意を確かめなければなりません。
よく「数字のマジック」という言葉を耳にしますが、例えば「30%の○○が含まれている」ということは、「70%は○○が含まれていない」ということと同じである、ということを即座に見破らなければなりません。
その上で、それが自分にとって利益をもたらすのか否かを判断しましょう。
視点を変えさせるレトリックにしても、それ以前の「事実」があなたにとって、どのような印象を与えたのかを、自分で考えましょう。
相手が提示してきた「新しい意味」は、相手を有利にするためのまやかしであることを意識しましょう。
あなたが最初に感じた印象こそが重要なのです。