ホーム心理テクニックを利用した交渉術フット・イン・ザ・ドア・テクニック
人間の心理をついたテクニックには、その世界では有名なものが沢山あります。
今回はその1つとして、フット・イン・ザ・ドアテクニックをご紹介します。
このテクニックは、「あるお願いを聞き入れてしまうと、その後のお願いも断り辛くなり、結果的に聞き入れてもらえるようになる」という心理を利用したものです。
扉が少しあいたところに足を差し込むと、閉められずに開けやすくなってしまうことから、フット・イン・ザ・ドアテクニックといいます。
例えば、お試しキャンペーンなどで、無料でモノをもらえたり、体験できたりする場合などがこれに当たります。
「これはお得だ」とばかりに誘いに乗ってしまうと、その次に有料のサービスを購入しやすくなってしまうのです。
相手も善意で無料キャンペーンをしているわけではありません。
無料というエサによって相手をおびき出し、最終目的である有料サービスを購入させようという狙いがあります。
もちろん、すばらしいものだから一度体験してもらえば、あとは買ってくれるだろう、という考え方もあります。
心理的に言うと、無料で何かモノをもらうという行為は、もらう側には負い目を感じさせる行為でもあります。
人は無料でモノをもらった場合、何かお礼に返さなければならないという気持ちになります。
その心理を利用するために、最初は無料でサービスを与え、更に他の有料サービスの購入を迫るのです。
この心理テクニックは、寄付金を募る場合にも使われます。
何かを無料でもらう対価として寄付金を呼びかけられた場合、更に断り辛くなってしまうため、効果的な心理テクニックといえます。
このテクニックを利用すれば、「これをちょっと試してみてよ」と相手に薦め、のってきたところで更に良いものを試させ、最終的に、こちらの本来の目的を果たす、ということができます。
要するに、最初は他愛もないお願いをして、次にそれより少し重要なお願いをする…というように、徐々に願いを大きくしていく、ということです。
最初はごく簡単な小さなお願いにしておけば、誰でも受け入れてくれるものです。
そこで相手の心理的なバリアーを解かせてしまうのです。
例えば、あなたは財布を忘れてしまい、電車賃すら持っていないとします。
しかし、いきなり「電車賃を貸してください」と言っても貸してもらえないことが多いかもしれません。
そこで、
「すみません。電話をかけたいのですが、小銭がないので、10円貸してもらえますか」と、お願いしてから、「実はお金を忘れてしまったので、電車賃を貸してもらえませんか」という風に、まずは10円程度の簡単なお願いをしておいて、次にもう少し高い額をお願いすることで成功率を上げます。
(会社で)「昼食を一緒に食べに行こう」と誘った後に、「今度の飲みに行こう」ということで、飲みに行ける確率を上げます。
いきなり飲みに誘っても断られてしまうかもしれない、というくらいの仲であるときに、成功率を上げるためには、まず会社の近くで皆の目もある場所で、昼食を食べに行きます。
相手もどんなに長くても昼休みの時間で終わるので、安心感があります。
こうして相手に受け入れさせてから、次回は夜に飲みに行く、というよりハードルの高い、本来の目的を成功させることができるのです。
「この書類をコピーしておいてもらえますか」と頼んでやってもらってから、「その書類に関するこの資料をつくっておいてもらえますか」と、より時間のかかる仕事を頼みます。
もしくは、「ちょっと教えてほしいんだけど…」と頼んで、教えてもらってから(教えてもらったことに関する)「書類をつくってほしいんだけど」と、本来の仕事を頼みます。
「無料お試しキャンペーンです。お試しください」と試させたのち、無料キャンペーン期間が過ぎてから「よろしければご利用いただけますでしょうか」と、購入を促します。
最初のお願いが軽微なもので、その次にお願いすることがそれに比べると、あまりにも大きすぎるお願いだと、断られてしまいます。
「100円貸して」と言って借りることが成功してから、「実は今月苦しいので10万円貸して」と言ったところで、貸してもらえないでしょう。
こういうときには、100円→1000円→5000円のように、段階を踏んで大きい額にしていかなければなりません。
最初の小さなお願いごとのときに、「これをやってくれたら、千円あげる」などと、報酬を設定してはいけません。
報酬を設定すると、「願い事を聞き入れるとお金がもらえる」という図式ができあがってしまいます。
あなたが最終的な目的であるお願い事をするときには、莫大な額の報酬を請求されるかもしれません。
また、報酬を与えてしまうと、後ろめたさや恐れを感じさせることもあります。
そして、深みにはまる前にやめておくようになる人もいます。
つまり、次のお願い事はきいてもらえないということです。
そもそも、フット・イン・ザ・ドアテクニックにひっかかりにくい人もいます。
こういう人は、我が強く自己主張をよくする人で、周りから見ていると、恥ずかしくてできないような態度を平気でとることができます。
このようなタイプの人には、フット・イン・ザ・ドアテクニックは有効ではありません。
このテクニックは人の善意につけこむ方法なので、善意を持っていない人に対しては効果がないのです。
こういうタイプの人の場合、お願い事の範囲がごく微小なものでなければきいてくれなかったり、お願い事の種類によってきいてくれたり、きいてくれなかったりします。
その人が、どの方面のお願いごとならばきいてくれそうか、見極める必要があります。
このテクニックは、日常茶飯事、無意識的によく使われています。
それだけに、知っているはずなのにひっかかってしまうこともあります。
軽いお願い事を受け入れた後に、「ついでにこれもやっておいて」と言われてしまうと、ついそれも引き受けてしまうのです。
特に問題がないような些細なことであれば構わないのでしょうが、取引先の相手が、このテクニックを使って有利に契約を進めようとしてきたときには要注意です。
フット・イン・ザ・ドアテクニックに負けないようにするには、まず、こういうテクニックが存在するということを理解することです。
そして、その方法を知っておきましょう。
相手が何かアクション(お願い事)をしてきたら、「これはフット・イン・ザ・ドアテクニックではないのか?」と警戒しましょう。
もし、最初のお願い事をきいてしまったとしても、警戒しておけば、次のお願いごとに対して、「それはできません」と断ることができるようになります。
また、断り辛くさせる一因として、強く断って周りの人に変な目で見られないかということもあります。
しかし、それによってあなたは余計な仕事を引き受けてしまい、負担が増えてしまうことを考えれば、きっぱりと断るべきでしょう。
相手が、心理テクニックを使って、頼みごとをきかせようとしているんだな、と思っていれば、罪悪感も薄れるでしょう。