わたしが応対してきた営業マンの殆どは、準備不足であったり、がっつきすぎであったりして、応対しなければよかったと落胆させられることが多いのですが、もちろんそんな人ばかりではなく、素晴らしい営業マンもいます。
その営業マンは、大手の会社の管理職クラスの人でした。
横文字の役職だったので、どの程度の階級かは分かりにくかったのですが、恐らく、係長か課長クラスでしょう。
まず最初は電話のアポとりでした。
大抵の電話アポは、話した感じで嫌な感じがしたら断ることにしているのですが、この人の場合は、断ろうという気持ちになりませんでした。
その理由は物腰がソフトだったからです。
そして、ここが重要なのですが、その物腰に無理や嘘がなく、自然体だったということです。
電話口で、物腰が丁寧であったとしても、自然体ではない人はよくいます。
特に20~30代男性に多いのではないかと思います。
自然体であるかないかの基準は、私の感覚によるものなので、人によっては異なる感じ方をするかもしれません。
私の場合は、何か、「型にはまった話し方をする人」が、自然体かそうでないかをわける境界線です。
この感覚は、多くの人と話すことで培われると思います。
ですから、感覚を鍛えるためにも多くの人と話をしておきましょう。
沢山の営業マンと会うのもいいかもしれません。
プライベートで人と会う場合と違い、仕事で会う場合には、相手は何らかの手段で本来の自分を偽っているものです。
プライベートであっても、本来の自分を偽ることはありますが、仕事での偽り方はプライベートのそれとはかなり違います。
武装といってもいいかもしれません。
心理的なバリア、営業するときの仮面、そういうようなもののことです。
営業に向いていないなと思う人ほど、武装しています。
そして、大抵の武装は見破られます。
契約をとるために武装をしていたら、それは相手を警戒させてしまうだけです。
そもそも、契約をとるために訪問している訳です。
そこで武装をしていたら「彼の口車には乗らないように注意しよう」という警戒心が先に立ち、話も上の空でしか聞かないでしょう。
しかし、よい営業マンは、武装をしていません。
武装をする代わりに、気を配っています。
相手を不快にさせないようにするために見た目や振る舞いに気を配ったり、相手の疑問に応えられるだけの知識を備えたりしているのです。
すなわち、「相手を困らせない」営業スタイルです。
その営業マンは、訪問前日に確認の電話をかけてきました。
明日○○時に会うことになっていますが、本当に大丈夫でしょうか、という内容です。
この電話は約束をしているので通常ならば確認する必要はないのですが、2週間前など期間が開いているときには、忘れていたり都合が悪くなっていたりしていないか、確認するために電話をかけるのはよいことでしょう。
そして、当日はもちろん時間通りに来ました。
まずは日常の話でつい最近あったことを話しました。
それも、独りよがりの話ではなく、お互いに関係のある内容でした。
わたしはこうだったけれど、あなたはどうでしたか?というような例を示した後に相手の答えを求めるという、答えやすい質問で、場を温めました。
そして、話はこちらの会社について、その営業マンが感じた疑問に移っていきました。
それは、訪問先の会社を事前に調べてきたというアピールにほかなりません。
もちろん、アピールしているそぶりを見せるのではなく、あくまでの自分の興味本位で調べていたらわからないことがあった、というスタンスでいなければ、自然体では振る舞えません。
例えば、昔御社の製品を使っていたとか、自分の身内が使っている、などです。
このとき嘘をつくとぼろが出る可能性もあるので、本当に使ってみると良いでしょう。
この営業マンがすごいと感じたのは、このような雑談からスムーズに自社製品のアピールにつなげていったことです。
とはいえ、そういう移行の仕方は一歩間違えると、自社製品を売りつけてやろうといういやらしさが伴ってしまいます。
それを緩和する方法として、この営業マンは「だからというわけではないですが…」と申し訳なさそうに弁解しながら、自社製品をアピールしてきました。
申し訳なさそうにしていても、製品紹介はきっちり行いました。
こちらも雑談でほぐれてきたので、そろそろ本題を、という空気が出来上がりつつある頃合いだったので、タイミングも絶妙でした。
残念ながら、そのとき紹介してもらった製品は、こちらでは必要のないものでした。
それを話している最中に感じ取ったのでしょうか、あまり強く営業をしかけてくる様子もありません。
これががつがつしている営業マンならば、何とかして次につなげようとしてくるものです。
結局、この営業マンと話した時間は20分程度で、殆どは雑談で終わってしまいました。
申し訳なくてこちらから商品について、あれこれと聞いてしまうほどでした。
「こういうカタログはありませんか」と聞くと、今度メールで送りますとの返事でした。
もう一度会社に訪問してもあまり効果がないと思ったのかもしれませんが、こちらとしても早々に見切りをつけてくれた方が助かります。
買うつもりもないのに次回また来ますと言われても、それはお客様のための営業ではなく、日報を埋めるための、自分のための営業でしかありません。
この営業マンは、そういうところがなく、初回は顔を売るだけという、まさに営業の基本を地で行く人でした。
このような営業マンには、何かあった時には声をかけようかなと思うものなのです。