アポとりの電話では、特に問題もない感じの話し方であったために、会うことにした営業マンの話です。
電話のときには、いいですよ、と返事をして、日時を決める段になって「当日は別の者が伺います」と電話の主は告げてきました。
「しまった」と思いました。
「別の者がくる」というアポ電話というのは、多くの場合、アポだけをアウトソーシングしている企業のすることです。
アポをアウトソーシングできるということは、お金が潤沢にあるということでもあります。
そういう企業は、社員は沢山採用するけれど、仕事がきついのか、毎年沢山の社員が辞めていきます。
社員が足りなくなるので、毎年簡単に大量採用します。
苦労せずに採用してもらえるものだから、モチベーションの低い社員も混じっています。
社員数が多ければ多いほど、混じる確率は高くなります。
もちろん、今更断ることもできないので、そのまま会うことにしました。
さて、営業マンがやってきた当日、一目見て、「この人はダメかも」と思いました。
それが見た目です。
顔が吹き出物だらけで、ところどころ血が出た跡があったりして、とても見苦しいのです。
もちろん、吹き出物は体質も大いに関係してくるので、それだけで人格を否定してしまうようなことはすべきではありません。
そう思って、様子を見ることにしました。
しかし、プロフェッショナルであろうとするならば、見た目にも気を遣ってほしいのです。
皮膚のケアをして、なるべくきれいに保とうという努力をしていれば、ここまで汚くなることはなかったのではないか。
相手に不快感を与えないのは、基本なのです。
その後、席に通し、彼の話を聞くことにしました。
すると、どうやらこの人は、「最初に関係のない話をして、相手との雰囲気をよくしてから、本題に入る」というのが、営業の基本である、と聞きかじったのでしょうか、まったく関係のない話を唐突にし始めました。
そして、その内容がやたらと長い。
まるで落語に入る前にやる「まくら」のような感じです。
しかも面白くもない内容です。
何でこんな無駄話に付き合わなければならないのかな、と思ってしまうような話で、その違和感は、彼とこちらとの温度差によるもののような気がしました。
どうでもいい話をするのであれば、本当に30秒程度でいいのです。
そして、「まくら」を話してウォームアップしようとするのであれば、せめて天気の話か、この会社に来るまでの道のりの話か、オフィスの印象の話など、その会社と関連が多少はある内容を選択しましょう。
あまりに関係のない話をされてしまうと、その話に乗っていこうという気にならないのです。
おそらく彼は何とか自分の営業スタイルをつくろうと悩んだ挙句、このような自分なりの型を作り上げたのでしょう。
何かの際にうまくいったと感じたのかもしれません。
しかし、それがどの場面でも通用するわけではありません。
「最初に枕を入れる」というようなある程度の型をつくるのはいいのですが、その話す内容までも決めてしまっていると、それは違和感の種となってしまいます。
こういうときは、流れだけを決めておいて、話す内容は、そのときに臨機応変に入れこんでいくべきです。
この程度のアドリブができないと、二人しかいないにも関わらず、浮いてしまうのです。
その話が終わってようやく本題に入りました。
会社案内をした後に、自社の扱っている商品をパンフレットを出しながら説明していきます。
こちらとしては、まだ初対面なので、まずはどんな会社であるのか、そしてどんな商材を扱っていて、どのような分野に得意なのか、ということだけ聞くことができれば、それでいいのです。
一通り話をしてもらって、今後何かあるときに連絡をするうちの一社にしようかな、という感じです。この段階で何かに困っているわけではありません。
その商品の説明を聞いていても、まだ興味を引くものはありませんでした。
「値段が高すぎるな」という感想を持った程度です。
こういうときは、訪問先の会社の規模を考えて、買ってもらえそうな商品の説明を間に挟んでいく方が「そういう商品も扱っているのか」と安心できます。
会社から「今期はこれを売るように」と指示されたものだけを機械的に説明しているだけでは、そのような機転はきかないでしょう。
また、商品の説明をするのであれば、自分で使えるモノであれば、実際に使ってみるくらいのことはしてほしいのです。
実物を見たことも触ったこともないものを説明されても、こちらの質問に答えることはできないでしょうし、どれだけ便利なものなのかという迫力を感じることはできないでしょう。
しばらく商品の説明を聞いていると、その営業マンは衝撃の一言を告げました。
「ま、うちの会社では使っていないんですけどね」
このようなぶっちゃけた話をする必要があったでしょうか。
このセリフは禁句です。
このときの商材は、コンピュータソフトウェアだったのですが、自社で導入していないものを他人に売りつけようとしても、信用してもらえるはずがありません。
「自社で使うほどには便利なものではない、ということなのだな」と思ってしまいます。
この話のあとは、もう聞くことはないなと思ったので、向こうが話をするのをただ聞いているだけにして、あまり反応をしないようにしていました。
そして、その営業マンが諦めてパンフレットをまとめて帰る支度を始めた時に、ふと気になって一つの質問をしてみました。
「今の会社で働いてどのくらいになりますか」
すると彼は「2年」と答えました。
それから付け加えるように、前の会社でも同じような仕事を5年ほどしていたと言いました。
つまり、最低でも彼は営業マンを7年やっているということです。
社会人になって7年というのは、あっという間ではありますが、7年経ってモノにならないのであれば、向いていないと諦めてもいい頃合です。
厳しいことを言うようですが、彼は営業に向いていないのです。
前の会社が、学校を卒業して初めて入社した会社だとすると、大体30歳前後なのでしょう。
今なら他の職業に転職するチャンスはまだあるかもしれません。
この営業マンの問題は、もって生まれたものではなく、あとから身についてしまったものばかりでした。
まず、客観的に見た目が汚いかどうかを事前にチェックするべきでした。
スーツや靴にも若干お金をかけないといけません。
デパートの年末セールにいけば、比較的いいスーツが安く手に入ります。
オーダーメイドが無理なら、イージーオーダーでも構いません。
自分の身体にぴったりと合ったスーツにすると、安物でも、それなりにきまった格好になります。
若ければ、スラックスはノータックでタイトにはき、革靴は週末に磨いてピカピカにしておきましょう。
風呂にも毎日入り、歯を磨き、髪形を整えましょう。
もし肌が荒れているのであれば、エステに行くという方法もあります。
そこまでできれば上出来です。
次に、彼はやる気がなさすぎました。
給料をもらっている以上は、やる気を出しましょう。
やる気を出すのは簡単です。
頭を使えばいいのです。
自分がどのように行動すれば、訪問先に気に入られるだろうかと考えて準備をすればいいのです。
この準備は、すればするほど相手の印象が良くなると思いましょう。
ポイントは、相手の立場に立って考えることです。
訪問が終わったら振り返って、自分の話はどうだったか反省しましょう。
相手の反応が悪かったと思うなら、どうすればよかったのかを考えて、反応が良かったら、どの点が良かったのか見当をつけてみるのです。
最後に物腰です。
話し方、目つき、表情、動作といった、体に染みついている「振る舞い」のことです。
にらむような目つき、無表情、毅然としすぎる物言い、これらはすべてマイナスです。
動作は常に丁寧に動くことを意識して、同時に二つのことをするのではなく、一つ一つを片付けていくように心がけるといいでしょう。
「ついでに」やっているような印象を与える動きを良くありません。
例えば、お辞儀をするのであれば、立ち止まって必ず相手を正面に捉えてお辞儀をする、というように。
話し方を客観的に感じるのは難しいことですので、普段から人の輪の中に入っていくようにしましょう。
社会人サークルや習い事をするのもいいでしょう。
人とのふれあいは、その分だけ人当りを良くします。
以上のように、自分が今している仕事に対して、全身全霊を傾けることができれば、少なからず仕事は楽しくなる方向に向かいます。
就業時間が終わったら、あとは完全にプライベートで、仕事が半ばであってもおしまい、なんていう態度で仕事をしていたら、いつまでたっても半人前のままです。
怖いのは、それに自分で気づかないことです。
また、誰も教えてくれません。
これでいいんだと思っているうちは、上達しません。
入社時よりは少しは上達するかもしれませんが、それは同じことをするための動きに無駄が減った、というだけで、プラスアルファで別のことができるようになったり、応用がきくようになったりするわけではありません。
何をすればいいのかわからないのであれば、まずは仕事をする上で、今の自分に足りないものは何なのかを考えましょう。
考えることはとても重要です。
頭を使って初めて上達への道が開けるのです。
自分に足りないものを、自分なりに考えたら、それを補うにはどうすればいいのかを考えましょう。
できるできないは後回しにして、とにかく何が必要なのかをすべて書き出してみるのです。
そして、そのうちから、今すぐに取り掛かれそうなものと、今は無理だけど何かが変われば出来そうなもの、一生かかってもできないものに分類して、今すぐできそうなものから始めましょう。
もちろん軌道修正も必要です。
やっていることが、どうも自分に必要のないもののように感じたのであれば、一度やめてみて他の方法を模索してみましょう。
人生なんて、軌道修正の連続のようなものですから、それまでやってきたことが無駄になるわけでもありません。
今までやったことの積み重ねがあなたの経験となっていくのです。
そして、同じことは最低でも1年は続けましょう。
できれば3年続けられるとよいです。
3年同じことを毎日続けることができれば、多くの場合その道のプロフェッショナルになることができます。
それでもモノにならないのであれば、それは向いていないのですから諦めましょう。
ただし、毎日続けることと、いい加減にやらないことです。
毎日続けもせずいい加減にやっていて、うまくいかないから諦めていたのでは、次に別のことをやったとしても、やはりモノにはなりません。
こうして苦手なものと得意なものを知り、自分の特性を把握して、得意な部分を強化していけば、今よりももっとよい自分になることができるでしょう。
社会人になりたての頃は、苦手なものが多くあるでしょう。
こういう時期は、得意なことを伸ばすばかりでなく、苦手なものを克服することにもチャレンジしてみましょう。
努力は、すればするほど、あなたの宝となっていくのです。